三者三様の「走れメロス」。

「演劇」と「格闘技」、もしくは「陸上競技」の合いの子。

 このスタイルを使っていつものようにこのおはなしについて語られてきた
「友情」や「真実」と「正義」というテーマをあっさりと飛び越えて
「人生の艱難辛苦」というものとしてお話を捉えて、
このことをとても美しく哲学的に演劇で表現しやがった。

 人間って、男って、元々は臆病で、怠け者で、
そのくせよりすごく、よりすごくと刺激を求めたがる。
けれど、何もできない、なんの役にも立っていないことを
見せつけられると自分はなんて大馬鹿野郎なんだ、と情けなくなる。

 で、以前より雰囲気悪いな、と感じて聞いてみると
理不尽なことがあって、その理不尽に対して激怒して、
友達を人質という「担保」にして、普通ならできそうもない事を
引き受けて、今生の別れかもしれないと妹の式を挙げさせて、
雨降る中を走り始める。

 濁流に尻込みしながらも覚悟を決めて何とか乗り越え、
山賊の群れをかき分け、かき分け、疲れはてて心が折れそうになるが
魂の泉に湧いた水を飲み、力を取り戻して動かない足を両の手で
掴んでむりやりにでも歩みを取り戻して、少しでも早くたどり着くために
身ぐるみ全部剥いで、あらゆる他者の思惑にも負けず、できそうもない事を
気がつけば、いつの間にか成し得ていた。

 この一部始終を力のある「身体言語」で見せつけられると
なんだか「人間の一生に振りかかる艱難辛苦」というものを
どう乗り越えて新しい人生を手に入れるか、そのすべてが
これでもか、これでもか、と詰まっていて、さらに踏み込めば
その裏にある「恐ろしいもの」に触れてしまいそうなほど
一つ一つが美しい。

 そして、なりふり構わず何かを成し得た姿を我に返って見ると
こっ恥ずかしいが、なし得る前のわたしとは違う感情がそこにはあった。

とにかく、両方の足を前後に動かしさえすればすべてが動く。

そういった「物語の肝」をどう表現したか、見てみよう。

福岡市文化芸術振興財団「走れメロス」

 初番目物はパピオという地下にある広めの稽古場に足場を組んで
用意周到に箱の中へ入るところから仕掛けを作り、入り口をくぐり抜けたら
そこは演劇というリングなのか、それとも人生という山あり、谷ありなのか、
その様子を上から覗き見る、という趣向。

 なんていうか、スターライトエクスプレス、もしくはベストアメニティスタジアム
上層スタンド最前列、転落防止用フェンスが恐ろしく低い感じの空間。

 その場所に野郎どもが横になっていて、まあなんとも言えない。
そのなんとも言えないところからAKB48の「ヘビーローテーション」を
使ったコーディネーションぶちかまされたらこれだけで度肝抜かれる。

 度肝を抜いたあとはただひたすらに「メロスは何故走り続けたのか」
ということをいろいろな角度から繰り返し、繰り返し丁寧に、丹念に見せ続けている。

 この姿を見て、また新しいメロスが別の「艱難辛苦」というものに
挑んでいく、人間の歴史はその繰り返しなんだろう。

福岡市文化芸術振興財団 インターナショナル版

 初番目物があまりにも先鋭的でやる場所を選んでしまう作りだったため
普通の「小劇場」の寸法に合わせて人生の艱難辛苦と強さ、弱さ、
その他もろもろごとを60分に圧縮、濃縮するとこうなるのか。
まるで宗教画のような味わい。

 というか、クリスマスの時期に教会に作ってある
どういう名前かよくわからないが、ある置物のような質感と
見後感だった。

坂口修一 「走れメロス」

 初手から持って行かれた。
というか、自分が間に合うギリギリで新幹線に乗り、広島にたどり着き、
宿に入って、ハコに辿り着いたら演者がまったりと場を温めている。

 ・・・どうやら「巻き込み型」の演劇らしく、そのセグメントに関する段取りを
これまたまったりと進めて、「メロスは、激怒した」という冒頭の一文から
スイッチが入り、怒涛の勢いで「人生は艱難辛苦の連続だ」という物語が始まった。

 いや、まあ、引き出しの多さがすごいから、
普通にやれば重くて、硬いものをこんなにも「柔らかく」、
そして「楽しく」やれるのかもしれない。
というか、ある意味、「走れメロス」という「漫才」の演目になっていて、
この「漫才」をこの場所特有の「中と外が一体化出来る空間」で
やっているからシンプルに物語が入ってくる。

 故に、メロスの行動を通して人が持つ「素晴らしさ」も見えるし、
反対に人が持つ「醜さ」までもよく見える。
このふたつを体現し、さらには「信じる」という力を発揮したことで
メロスは「勇者」となった。

 ・・・フレディ・マーキュリーの「マーキュリーズ・マジック」とは
こういうものなのか、という見後感。

同じ物語というものを違う味付けでやると少しずつ違うものだな。
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